二点透視図法で建物を描く|初心者の壁突破する為の垂直の倒れ・歪み・比率崩れを一発で整える黄金ルート

建物を「二点透視図法」で素早く、しかも破綻なく描けるようになるには、理屈と順序を固定化するのが最短です。

本記事は、背景イラスト・漫画・建築スケッチ・プレゼン資料まで横断して使える“建物専用”の二点透視テンプレートを提供します。肝は三つ――①手前角の垂直を厳守、②アイレベル(地平線)を一度だけ確定、③左右の消失点を用途に合わせて距離調整。ここが済めば外形箱→グリッド→厚み→接地→光の順に積むだけで、窓ピッチや庇の見付、階高の反復まで自動的に整います。

さらに、道路の勾配、基壇、街路樹、サイン類の“接地感”を足すと現場写真のような信憑性が出ます。逆パースや垂直倒れが起きた場合の即応手順もチェックリスト化。定規や3Dに頼らず、紙・iPad・Photoshopのいずれでも再現できるよう、数値と目視の両面からガイドします。

  • 最短の描画フロー:垂直→水平(EL)→消失点→外形箱→グリッド→厚み→接地→光
  • “画角=消失点間隔”のコントロールで迫力と上品さを両立
  • 窓・梁・庇はテンプレ反復で速度と均質性を確保
  • 基壇・影・重なりで接地を決定、奥行は密度勾配で演出
  • 仕上げは素材差(反射・粗さ・色温度)で読ませる

二点透視図法の基本(建物に適用する前提)

二点透視図法は「水平は左右二つの消失点へ、垂直は画面内で常に鉛直」という極端にシンプルな規則で成立します。だからこそ、最初の配置で迷いを残さないことが最大の効率化です。まずは視点の高さ=アイレベル(EL / HL)を一本だけ決め、そこに左右の消失点(VP-L / VP-R)を置く。次に手前角の垂直を厳密に立て、上端・下端から床・天井方向の補助線を各消失点へ流す――この三手が決まれば、空間の骨格は完成します。建物文脈では「画角=消失点間隔」の選び方が画面の品位と迫力を左右するため、描き始める前に完成イメージを言語化し、望遠寄りか広角寄りかを先に決断しましょう。望遠寄りは歪みが少なく端正、広角寄りは近接感とスピードが出ます。どちらが正解ではなく、“用途に合う”が正解です。

アイレベル(地平線)の決め方と見え方

ELは観察者の目の高さそのものです。人の目線付近(約1.5m)に設定すれば、街路レベルの説得力が高まり、室内は家具の天端と通じて合理的な線がたくさん現れます。俯瞰にしたいならELを上げ、見上げの迫力を出したいならELを下げる。いずれにせよ「途中で動かさない」が鉄則で、ELを動かした瞬間に全水平が破綻します。迷ったら人物シルエットやドアノブ(床から約900mm)で見当をつけ、決めたら迷わず一本に固定しましょう。

左右の消失点の置き方・間隔と安定感

二つのVPは必ずEL上に乗せます。間隔はそのまま画角の代理で、狭い=広角、広い=望遠。狭めれば手前の角が張り出して迫力が出る半面、上層の逃げが大きく歪みが強まります。広げれば線は落ち着き、上品で清潔な印象に。建物の用途(住宅・オフィス・商業)や見せたい物語(躍動/静謐)に合わせて決め、処理中に迷ったら「完成画像を頭で再生し直して」選び直します。なお、VPがキャンバスの外へ出るのは普通で、画面内に無理やり押し込むと線が曲線に見える“疑似歪み”が出やすくなります。

基準となる垂直線(手前角)の取り方

最初に立てる一本の垂直は全比率の基準です。ここが1度でも傾くと全体が“酔う”ため、紙なら定規、タブレットならスナップ、Photoshopならシフト+ドラッグで厳密に取ります。以後の面はすべてこの垂直から派生していくので、迷ったら必ずここへ戻る癖を付けましょう。

視角・画角と歪みの関係(広角/望遠の違い)

画角は情報の読みやすさそのものです。広角寄りは手前誇張が効き、低層のリズムや街角の迫力に向くが、上層の見付差や反復の乱れが目立ちやすい。望遠寄りは線が揃って清潔、素材感や窓ピッチの均質が際立ちます。迷ったら“中庸”から始め、必要に応じて段階的に広げる/狭めると失敗が少ないです。

設定 消失点間隔の目安 見え方の特徴 向く用途
広角寄り キャンバス幅の0.5〜1倍 迫力・スピード、歪み強、上層が大きく逃げる 漫画の決めコマ、路面感の強い街角、低層商業
中庸 キャンバス幅の1〜2倍 破綻少、整理しやすい、万能 汎用外観図、プレゼン、学習
望遠寄り キャンバス幅の2倍以上 歪み少、平板化しやすいが端正で上品 住宅・オフィスの上品表現、実務パース

用語整理:VP・HL/EL・視心の意味

VP(Vanishing Point)
水平線が収束する点。二点透視では左右に二つ。
HL / EL(Horizon Line / Eye Level)
地平線=目線。全水平がここへ向かう。
視心
視線の中心。二点ではVP間の中点近傍に置くと安定。
  • 迷ったら「垂直→EL→VP」の三手に戻る。
  • 線は“どのVPへ向かうか”を常に言語化して確認。

建物は「箱」から始める構築手順

建物は複雑に見えても、最初は“直方体=外形箱”に還元できます。外形箱を先に立てれば、間口・奥行・高さの比率が早期に確定し、後から窓や庇、バルコニー、看板を貼り付けるだけで破綻のない外観へ収束します。この順序は二点透視に最適化されており、線の本数が最小化されるため、清書の効率も段違いです。箱→グリッド→厚み→開口→付属物の順で“決めていく場所”を限定し、迷いを画面に出さないことが上級者のクオリティにつながります。

基本ボックスで外形を決める手順

  1. 敷地角に合わせて手前角の垂直を引く(ここが全ての基準)。
  2. EL上に左右のVPを置き、手前角の上下端から床・天井方向線を通す。
  3. 間口と奥行の“比”を仮決めし、二つの見え面を閉じる。
  4. 高さ=階数×階高で仮確定。屋根や基壇は後で足す。
  5. ここまでを“外形箱v1”として固定し、以後は壊さない。

面の比率とプロポーションの取り方

良い建築パースは比率で決まります。住宅は間口≒奥行、高層や商業は間口が長めになりがち。比率を曖昧にしたまま窓割りへ進むと、最後に階段室や設備スペースが入らず“説明のつかない余白”が出ます。まずは外形箱で比率を合意し、グリッド化で数値に落とすのが鉄則です。

建物タイプ 目安比率(間口:奥行:高さ) 階高の目安 見え方の要点
戸建住宅 1.0:0.8:0.6 2.8〜3.0m 親しみ。屋根・庇・ポーチで奥行演出。
中層オフィス 1.6:1.0:1.2 3.5〜4.2m 梁・スラブ反復が主役。窓ピッチ均質が命。
商業施設 2.0:1.2:0.8 4.0〜6.0m 大開口とサイン。庇厚と前縁ハイライトが効く。

見せたい角・カメラ位置の選び方

画面の主役は“情報が集まる角”です。道路と建物の関係が明快になる敷地角に手前角を合わせ、カメラ高は人目線を基本に少し上下へ振ってニュアンスを調整。見上げは迫力、俯瞰は地面情報が増えて説明的になります。どの角を主役にするかは、サインや庇の位置とも連動させると説得力が増します。

  • 外形箱で“大枠の意思決定”を済ませ、細部で迷わない。
  • 比率は早めに固定 → グリッドへ落とし込み → 反復で量産。
  • 主役の角に情報を集約。サイン・庇・照明で視線誘導。

階層・窓・屋根など外装ディテールの描き方

外装は反復の美学です。フロアライン、柱スパン、窓ピッチ、サッシ見付、庇の厚み――この“反復可能な要素”を最初に特定し、ガイド線で一括通ししてから清書すれば、手作業でも機械的な均質さを得られます。二点透視では全ての水平が左右のVPへ向かうため、作図の大半は“同じことの繰り返し”。反復の乱れは素人感の最大要因なので、テンプレを使って速度と精度を同時に上げましょう。

階高とスパンの分割(フロアラインの通し方)

手前角の垂直へ階高の目盛りを打ち、各点から両VPへ線を流すと、見え面の床天井が一気に揃います。柱スパンも同様に、端点からVPへ補助線を走らせて等間隔で刻みます。梁成は一定幅で“影の帯”を反復させると構造感が立ち上がります。

窓枠・カーテンウォールのリピート表現

  1. 基準窓を一つだけ丁寧に決める(縦横比・見付・桟割)。
  2. 四隅からVPへ補助線を伸ばし、ガイド上で複写・反復。
  3. 角に近づくほど見付が圧縮される“見えの差”を許容。
要素 寸法目安 描写のコツ
サッシ見付 40〜60mm相当 中央太・端細で均質感。角は細りを強調。
梁成(見付) 250〜600mm 影帯を一定幅で通すと構造リズムが出る。
庇厚 50〜150mm 上面・前縁・下面の“三面見せ”で薄さを魅せる。

屋根・庇・バルコニーの奥行と厚み

薄板の説得力は境界処理で決まります。前縁へ細いハイライト、下面へ環境光、上面は空色の微グラデーション。手すりはスパンでリズムを作り、立ち上がりは“二重線+小さな影”で硬さを表現。バルコニーは床スラブの厚みを見せ、ドレイン位置の暗点で実在感を補強します。

  • 反復はガイドで先に通し、清書は最後に“まとめて”。
  • 見付は距離で細る。数値より見た目の均質を優先。
  • 薄板は“三面+前縁ハイライト”で一撃。

地面・道路・街並みと建物の関係

接地が弱いと、どれほど建物が整っていても“浮いて”見えます。基壇(地面から建物へ乗る段差)、歩道の縁石、舗装目地、道路の車線、横断歩道、植栽帯、街灯、ベンチ、駐輪――これらを二点透視のルールで通し、前景・中景・遠景で密度とコントラストを段階的にコントロールすると、視線は自然に主役へ導かれます。とくに“基壇の段差+落ちる影”は接地確定の最短手段です。

接地面と地盤・基壇の描出

建物が地面にめり込む誤描を防ぐため、基壇天端のラインを歩道方向へ通して段差を明示。段差の影を手前側に薄く落とし、縁にわずかなハイライトを入れると石質の硬さが出ます。雨の日設定なら縁に細い反射を足すだけで一気にリアルに。

歩道・道路のパースと街区の通し方

  1. 歩道の縁石ラインを両VPへ通す(奥ほど間隔が詰まる)。
  2. 舗装・タイル目地を“手前太・奥細”でグラデーション。
  3. 車線・停止線・横断歩道は太さを距離で減衰させる。
要素 パース処理 質感の付与
歩道タイル 長方形グリッドを両VPへ 目地コントラストを前強・奥弱に
アスファルト 面はフラット、ラインはVPへ 粒状ノイズは控えめ、ハイライトは細帯
縁石・側溝 エッジ強調と短い投影影 湿り反射で縁を細く明るく

周辺建築・樹木・小物の重ね方

スケール感は“重なり”で手に入ります。前景に樹木や標識、ベンチ、自転車、人物を重ね、線幅とコントラストを最も強く。中景はやや抑え、遠景は面の明暗のみで十分。周辺建築は窓割りを省略し、屋根ラインと立面の大きな陰影だけに留めると、主役の情報が浮き立ちます。

  • 接地は段差・影・重なりの“三点セット”。
  • 前景>中景>遠景の順で線幅・コントラストを落とす。

光・影・素材感で建物の立体感を高める

同じ線画でも、光と素材の整理で“完成品らしさ”は大きく変わります。屋外は太陽光(硬い影)+環境光(柔らかい持ち上げ)が基本。二点透視は面の向きが明確なので、光源に対して正対する面=最明、側面=中暗、天面=ハイライトという“三値設計”だけで読める画面になります。素材は反射の鋭さ、粗さ、色温度、映り込みの管理で差を付けましょう。

光源設定と影のルール(投影の方向)

太陽は仮に左上45°に置くと整理が容易。庇・梁・手すりの影は等間隔のリズムを作るため、構造の反復と一致させると美しく見えます。地面への投影は建物の輪郭をなぞるため、角の位置で影が折れるのを忘れないこと。

外壁・ガラス・金属のマテリアル表現

素材 ハイライト 中間調 陰影 コツ
ガラス 水平に細い強ハイライト 空色〜周囲色の帯 反射で暗く落としすぎない EL付近に水平反射帯を入れる
金属 縁で鋭く 短い距離の勾配 冷色で締める 角は二重線で硬さ表現
石・コンクリート 控えめ 微ノイズ やや柔らかい影 目地でスケールを示す
面方向に伸ばす 木目は控えめ 暖色寄り 端部に薄い反射

反射・映り込み・空のグラデーション

ガラスは空と周辺を映します。EL付近の水平反射帯、上へ行くほど空色が濃く、下へ行くほど地面色が混ざる――この二層構造だけで一気に“それらしく”。空は上濃・下淡のグラデーションを薄く入れ、ビル頂部の抜けを作るとスケール感が伸びます。

  • 光源は一貫。迷ったら“左上45°固定”で設計。
  • 素材差は“反射の鋭さ×粗さ×色温度”。
  • ガラスの水平反射帯は最小コストで最大効果。

二点透視図法で起こりやすい破綻と直し方

破綻は初期設定の迷いと、途中のルール忘れから起こります。代表的なのは「逆パース」「垂直の倒れ」「消失点の近すぎ/遠すぎ」「窓ピッチの乱れ」「接地の甘さ」。それぞれに対して“即時に戻る場所”を用意しておけば、終盤での大修正を避けられます。最も効くのは“外形箱へ戻る勇気”。箱に戻せば9割の歪みは消えます。

逆パースの見抜き方と修正手順

  1. 床グリッドが奥で広がっていないか(正しくは手前広・奥狭)。
  2. 怪しい面に対角線を引き、方向線が正しいVPへ向かうか検査。
  3. 外形箱に戻り、面をVPへスナップして引き直す。

垂直の倒れ(キーイング)の対策

垂直は人間の敏感域。1〜2度でも“酔い”を生みます。対策はシンプルで、手前角の垂直を再定義し、そこから全体を回転補正/引き直し。仕上げ前に“垂直だけ”の検査時間を必ず取りましょう。

消失点が近すぎる/遠すぎる時の調整

近すぎる=歪み過多、遠すぎる=平板で間延び。完成イメージに合わせて消失点間隔を再設定し、外形箱から再構築します。途中からでも箱に戻ればやり直しは速いです。

症状 原因 即効措置
奥で広がる 逆パース 方向線を正しいVPへ、外形箱に戻す
上層が傾く 垂直の倒れ 手前角を鉛直再定義、全体を回転補正
退屈で平板 消失点が遠すぎ 画角を広げ、前景情報を強化
歪み過多 消失点が近すぎ 画角を狭め、見付差を抑制

最終検査の順序は「垂直 → EL → VP → 外形箱 → 反復 → 厚み → 接地 → 光」。この順序を声に出して確認するだけで精度が一段上がる。

まとめ

二点透視で“建物が立つ”かどうかは、開始3分のセットアップで決まります。手前角を鉛直に通し、アイレベルを迷わず一本だけ引き、左右の消失点を構図の目的(迫力/上品さ/俯瞰/見上げ)に応じて離す。

この三点が合えば、床天井ラインと外形箱が一気に整列し、以降はグリッドに沿って階高・窓ピッチ・梁成・庇厚を反復で載せるだけ。地面側は基壇で段差をつくり、歩道目地や車線を消失点へ通して接地感を確定。前景・中景・遠景で線幅とコントラストを段階的に切り替えれば、主役の建物が視線を奪います。最後は光源を一つに絞り、ガラスの水平反射帯、金属の鋭いハイライト、石の鈍い面反射で素材差を整理。

 

もし破綻が見つかっても、垂直→EL→消失点→外形箱の“逆戻り手順”で短時間に修正可能です。理屈と反復をセットにするほど再現性は上がり、どんな規模の建物でも清潔で説得力のあるパースに落とし込めるようになります。

  • 起点は常に「垂直・EL・消失点」。ここが崩れると全て崩れる
  • 反復はガイドで一括 → 清書は最後にまとめて
  • 接地は段差・影・重なりで決める。情報は“前厚・奥薄”
  • 素材は反射の鋭さと粗さで描き分け、光源は一貫させる