- 画面比と余白を先に決め視線の抜けを設計する
- 眉間から顎の軸で回転を測り当たりを整える
- 光源を一つに固定し影を三段で置き量感を出す
- 焦点は目に集め輪郭の硬さを一点化して締める
- パーツは配置の関係で似せ細部は後で絞る
- 髪は面で流れを作り最後に数本で方向を示す
- 練習は時間制限と講評の言葉で回し再現性を高める
似顔絵デッサンの全体設計と流れ
導入：工程を固定すると判断が速くなります。構図→当たり→大きな影→パーツの回転→仕上げの順を守り、各段で通過基準を一行で宣言します。段階を混ぜないことが最短距離です。焦点の一点化と余白の設計を最初に決めます。
構図と余白で印象を設計する
画面の比率と顔の占有率を先に決めます。視線の抜け側に少し広い余白を取り、首と肩の関係で重心を受けます。斜め構図では頭頂と顎を対角に配置すると動勢が出ます。余白は情報の不足ではありません。視線の通路です。余白が整うと、少ない線でも主役が立ちます。
当たりで回転と傾きを確定する
眉間から顎先を一本の軸で通し、鼻柱と口角の位置を仮置きします。目は回転で遠側が狭くなり、耳は傾きで上下します。数値より距離関係で測り、三角形で結ぶと誤差が累積しにくいです。ここでは似なくても構いません。次段の影で急に似るため、線を増やし過ぎないことが要点です。
大きな影を面で三段に置く
光源を一つに固定し、頬面・鼻梁・上瞼・顎下の影を面でまとめます。濃度は三段で十分です。半影は後で調整し、まず形を優先します。影の端はすべて同じ硬さにせず、見せたい部位に硬い縁を残します。最暗部は一点だけを更新し、他は差で支えます。
パーツの回転とシルエットの整合
目鼻口を記号で描かず、球と円柱の回転で捉えます。口角は線で上げず影で切り替えます。髪は束で面を作り、光の帯で流れを示します。シルエットは似顔絵の第一印象を担います。頬と髪の接点を硬く、顎は所々消すと自然な奥行きが生まれます。
仕上げはエッジとハイライトで締める
最明を消しで一点だけ強く抜き、最暗も一点に絞ります。全体を均すよりも差をつくる発想です。焦点の周囲に硬いエッジを集め、奥や周辺は柔らかく流します。不要な補助線は残さず、残す線にも役割を一つだけ与えます。
手順ステップ
① 画面比と余白の設計。② 当たりで軸と回転。③ 影を三段で面置き。④ パーツの回転整理。⑤ ハイライトとエッジで締める。⑥ 補助線の整理。⑦ 焦点の一点化。
Q&AミニFAQ
Q. 当たりが似ません。
A. 影まで進めて評価します。線だけで似せると焦点が散ります。
Q. 仕上げで硬くなります。
A. 硬い輪郭は一点だけ。奥と周辺は輪郭を途切れさせて面で支えます。
Q. 時間が足りません。
A. 各段の通過基準を一行で宣言し、戻らない進行にします。
注意：段階の目的を混ぜると線が増えます。工程ごとに評価軸を切り替え、通過基準に達したら次へ進みます。
設計→描写の順を守れば、線は少なく情報は濃くなります。最暗と最明の限定と輪郭の硬軟で視線を導き、安定した似せ方に寄せます。
道具と用紙の基準を決める
導入：道具は増やすほど判断が増えます。基準の一本と紙を決め、用途限定で追加します。芯の硬さは濃度とエッジの管理、紙目はグラデーションの質に直結します。役割の分担で迷いを減らします。
| 項目 | 基準 | 用途 | 注意 |
|---|---|---|---|
| 鉛筆HB | 当たり用 | 軸と比率の確認 | 圧を抜いて薄く置く |
| 鉛筆2B | 影の中盤 | ハーフトーンの拡張 | 層を薄く重ねる |
| 鉛筆4B | 最暗一点 | 焦点の締め | 範囲を広げない |
| 中目紙 | 標準 | 肌の連続を確保 | 同一銘柄で比較 |
| 練り消し | 最明部 | 抜きと持ち上げ | 擦らず置く |
芯の硬さと濃度の積層
HBで当たり、2Bで中間、4Bで最暗の一点を作ります。にじみやテカりは層を薄く重ねて回避します。尖った芯はエッジ、寝かせた芯は面の均しに使います。筆圧は最暗以外では控えめにし、濃度は往復回数で稼ぎます。
紙目と滑りの関係
細目は線が立ち、荒目は粒が出ます。似顔絵では中目を基準にし、質感を強調したい場面だけ荒目の紙へ切り替えます。用紙は同一条件で揃え、練習の比較を正確にします。滑り過ぎる紙では半影が薄くなりやすいので注意します。
保持と姿勢で線質を制御する
短い線は指、長い線は肘で引きます。鉛筆を寝かせて面を置き、焦点のエッジでのみ立てます。消しゴムは描画ツールです。尖らせてハイライトを拾い、練り消しでハーフトーンを持ち上げます。紙面に手が擦れないよう下敷きを使います。
ミニ用語集
紙目：紙の凹凸で、粒立ちと滑りに影響。
ハーフトーン：明部の中の中間調。量感を連続させる帯。
コアシャドウ：最暗帯。回転の向きを語る。
エッジ：切れ際の硬さ。焦点と前後差の制御点。
テカり：黒鉛の反射。厚塗りや強圧で出やすい。
ミニチェックリスト
□ 基準の鉛筆を一本決めたか。□ 最暗は一点か。□ 紙は同銘柄で揃えたか。□ 消しで描く手を持ったか。□ 筆圧は必要最小限か。
道具は選ぶより使い分けです。基準を固定すれば判断が速くなり、線質のぶれが抑えられます。役割の分担が安定への近道です。
プロポーションとアタリの取り方
導入：標準比率は差を測る物差しです。正確さそのものより、どこが違うかを素早く示す枠組みとして使います。基点を増やし過ぎず、少数の柱で全体を支えると調整が軽くなります。
正面での基点連結
眉間から鼻柱を一本で通し、口角と顎先を距離関係で結びます。対称は最後に整えます。遠側のまぶたの高さを意図的に下げ、回転を先に見せます。耳は目尻と鼻先の間に入り、傾きで上下します。二点間を三角形で測ると、誤差が広がりにくいです。
三分の四での短縮と重なり
遠側の目と眉は幅も高さも短くなります。鼻梁が頬に重なり、口角は遠側がやや上がります。輪郭の遠側は頬骨の張りで隠れます。短縮は量ではなく重なりで見せると自然です。回転の方向に沿って線を曲げると、少ない線でも立体が伝わります。
年齢と性別の差を面で読む
子どもは顎が短く頬が広い面でつながり、高齢は骨の角が立ち皮膚の厚みが薄くなります。性別では眉骨と顎角の出方が印象を分けます。線で足すより面の厚みで調整します。輪郭の硬さを一段変えるだけで年齢感が動きます。
- 眉間を起点に垂直軸を置く
- 鼻柱と口角の位置を三角で結ぶ
- 回転の方向に沿って線を曲げる
- 遠側の短縮は幅より高さから入れる
- 耳の上下は傾きで決める
- 対称の調整は最後に行う
- 重なりで奥行きを示す
事例：遠側の目を小さくし過ぎる癖がありました。高さの短縮を先に入れ、幅は最後に触るルールに変えると、当たりの手数が減り、似る率が上がりました。
- 瞳孔位置は口角決定の補助線に使う
- 顎先は首の影とセットで下げ過ぎを防ぐ
- 生え際は波の連続で面の回転を示す
- 頬骨の張りは輪郭の途切れで見せる
- 鼻翼の張りは控えめにして上品に
- 下唇のリムライトで厚みを出す
- 最暗は一点化して形を締める
ベンチマーク早見
・両目間＝一眼幅。・耳孔は目尻と鼻先の間。・鼻先は眉〜顎の中間よりやや下。・口角は瞳孔下〜目の中心。・遠側の高さは近側より一段低く。
比率は固めるためより、差を読むためにあります。三角形で距離を結び、回転の読みを先に通すと、当たりの段階で「似る余地」を残せます。
陰影設計とエッジの管理
導入：陰影は量感と視線を同時に設計する装置です。光源の固定、明暗の階段、エッジの硬軟で統一感をつくります。暗さを足す前に、暗くしない場所を決めると整理が速くなります。
影の役割を四つに分ける
投影・コア・反射・半影を役割で分けます。コアは回転、投影は形、反射は暗部の濁り回避、半影は柔らかさです。全部を描く必要はありません。場面ごとに必要な二つに絞っても十分な立体が出ます。役割が明確になるほど線は減ります。
エッジの硬軟で焦点を誘導する
硬いエッジは視線を止め、柔らかいエッジは流します。目頭と上瞼の接点を硬く、頬と顎の境を柔らかくします。輪郭は所々で消し、空気を入れます。硬い場所は一点で良く、全周を硬くすると平板になります。硬軟の差が空間を作ります。
明度階段の練習で判断を速める
白〜黒を五段で面分けし、ハーフトーンを広めに取ります。段階を増やすより少数で回転を示します。最暗は一点に集約し、他は控え目にします。反射光は暗部を濁らせない範囲で足します。ハイライトは一点で十分です。
ミニ統計：斜光では頬骨と鼻梁のコア帯が明瞭で、学習初期の成功率が高い傾向があります。正面光は情報が平坦になり、陰影の判断が難しくなります。練習は斜光を基準にすると効率が上がります。
比較
メリット：光源固定は統一感が生まれます。影の形が整理され、短時間で量感が立ちます。
デメリット：演出の幅が一時的に狭まります。習熟後に複数光源へ広げます。
よくある失敗と回避策
失敗：反射光を明るくし過ぎる。対策：暗部は暗いまま、濁らない範囲で持ち上げる。
失敗：輪郭を全周で硬く囲う。対策：焦点以外で途切れを作り、面の差で見せる。
失敗：最暗を広げる。対策：一点に限定し、差で支える。
陰影は選択の技術です。一点の最暗と硬いエッジで焦点を作り、他はやわらかく支えると、情報量を増やさずに立体が整います。
パーツ別の観察と描写
導入：パーツは情報過多になりやすい領域です。配置の関係と回転の読み取りを核にし、質感は線量でなく面の扱いで切り替えます。輪郭の頼り過ぎは硬さの原因になります。
目はまぶたの厚みで立体を出す
目を楕円で囲うと記号化します。上瞼の厚みと眼球の丸みで形を決め、涙丘の位置で回転を読みます。黒目はべた塗りにせず、縁の一点を最暗にして中心はわずかに逃します。ハイライトは一点で十分です。下瞼は線より影の切り替えで示します。
鼻と口は面の切り替えで見せる
鼻梁は面の境で立ちます。輪郭の線ではなく影のエッジで示します。小鼻は上下の面に分け、鼻先は反射で丸みを伝えます。口角は口輪筋の回転点で、線で上げず影で切り替えます。上唇は暗く、下唇は反射で持ち上がります。
耳と髪で年齢と印象を整える
耳は厚みが鍵です。溝をすべて追わず、外縁と谷で高低差を出します。髪は束で面を作り、光の帯で流れを示します。先端だけ数本拾い、残りは面で支えます。生え際は波の連続で作ると自然です。輪郭の硬さを一段変えると年齢感が動きます。
- 睫毛は点の群れで方向を示す
- 白目は白で残さず面の回転で明るさを出す
- 小鼻の張りは控えめにして上品に
- 下唇のリムライトで厚みを強調する
- 耳の情報は二段階に整理する
- 髪のハイライトは帯で置く
- 輪郭は焦点だけ硬くする
- 首の影で頭の重さを受ける
コラム：彫刻の石膏像で骨格を学ぶと、線が減っても情報量が上がる感覚が身につきます。立体で覚えた回転は写真にも転写でき、平面の迷いを減らします。週に一度は立体を観察して感覚を更新します。
手順ステップ
① 目は上瞼の厚み→涙丘→ハイライト。② 鼻は鼻梁のエッジ→小鼻の面→反射。③ 口は上暗下明→口角の影。④ 耳は外縁→谷。⑤ 髪は面→帯→先端。
パーツは足し算より引き算が効きます。面で語る割合を増やし、線は焦点に限定すると印象が締まります。
練習メニューとフィードバック
導入：上達は時間の多寡ではなく、設計の反復で決まります。課題を固定し、通過基準を言語化すると再現性が上がります。講評の言葉を増やすほど次の行動が明確になります。
一週間のメニュー例
月：構図と当たり（20分×2）／火：陰影三段（20分×2）／水：目鼻口の回転（20分×2）／木：仕上げのエッジ（20分×2）／金：通し（40分）／土：写真→実物の切替（各20分）／日：講評と再挑戦。短時間でも焦点を変えずに回すと密度が上がります。
自己講評の言葉を用意する
「鼻梁のエッジが強すぎた」「口角を線で上げた」など行動に近い言葉で記録します。次回は逆の行動を宣言します。講評は欠点探しではなく、次の手の設計図です。短く具体的に書くと、再現性が上がります。
作品の保存と見返し
紙に日付と課題名を記し、同条件で撮影して並べます。三週間で同モデルを再挑戦し、差を確認します。評価の語彙が増えるほど判断の速度が上がり、当たりの精度が上がります。小さな成功を記録し、次の課題に橋渡しします。
ミニ統計：二十分×二本の短期集中は、一時間連続よりも判断の鮮度を保ちやすい傾向があります。間に五分の講評を挟むと、次の工程の通過基準が明確になります。
ミニチェックリスト
□ 今日の通過基準を書いたか。□ 制限時間を設定したか。□ 終了時に一行講評を残したか。□ 三日ごとに焦点を入れ替えたか。□ 月末にベスト三枚を選んだか。
Q&AミニFAQ
Q. 継続が難しいです。
A. 時間より頻度を優先します。短い回を増やし、記録で次の行動を自動化します。
Q. 実物が動きます。
A. 構図と向きを先に確定し、回転の読みを核に、細部は最小限で更新します。
練習は仕組みで伸びます。通過基準と講評の語彙が行動を具体化し、短時間でも再現性が育ちます。記録は次の設計図です。
まとめ
似顔絵デッサンは、比率と陰影の設計で安定します。構図→当たり→影→回転→仕上げの順を守り、最暗と最明を一点に限定し、輪郭の硬さを焦点へ集めます。面で語る割合を増やして線を減らすと、印象が整い短時間でも似ます。道具は基準を決めて役割で使い分け、紙と芯の相性を把握します。練習はメニュー化と講評の言葉で回し、小さな成功を連続させます。工程の固定が迷いを減らし、作品の安定感を押し上げます。
