本記事は、初学者でも今日から安定した住宅パースを描けるよう、アイレベルと二消失点、垂直基準線という三本柱から出発し、箱起こし→屋根→開口部→外装ディテール→室内応用→仕上げチェックの順で、実務とスケッチの両視点から手順化しました。
単なる理論解説に留まらず、消失点間距離の取り方や紙面外消失点の扱い、等分と測点法のハイブリッド運用、窓やドアの“測って置く”配置、サッシの見込みで奥行きを出すコツ、屋根勾配と破風の厚みの見せ方、光源を固定した陰影設計まで、初心者がつまずく箇所をピンポイントで解決します。
さらに、練習課題・表・チェックリスト・ケース別の推奨値も併記し、A4一枚でも歪みを抑えた“素直にカッコいい家”に到達できる道筋を示します。本文はSEOとAIOの双方を意識し、専門用語をかみ砕きながらも実践強度の高い内容で構成しています。
- 二点透視図法×家の王道フローを“角→面→屋根→開口→仕上げ”で体系化
- 歪みを抑える消失点距離、紙外消失点の運用と線の当て方
- 窓列・階段・庇を“測って置く”等分・測点法テンプレ
- 切妻・寄棟・片流れの描き分けと破風・鼻隠しの厚み表現
- 室内応用(床グリッド×家具スケール)と光・影の整理術
二点透視図法の基本と家を描く全体像
二点透視図法で家を描くとき、仕上がりの安定は「一本の水平=アイレベル」「左右の消失点」「手前の垂直基準線」という三点セットで決まります。最初にアイレベルをまっすぐ引き、その上に左右の消失点を置き、紙面中央〜ややオフセット位置に垂直基準線を立てます。以後の水平エッジは左右どちらかの消失点へ、垂直は常に紙面の垂直へ揃うため、箱起こしから屋根・窓・庇・階段・外構まで、すべてが“収束の秩序”に従って確定します。最小限の線で最大の立体感を引き出すコツは、補助線(薄)→構造線(中)→輪郭(太)の三段階で線の役割を明確にし、各段階で不要線をリセットすること。広角歪みは消失点間距離で制御し、紙外消失点+延長板で角度の再現性を確保します。初心者が陥りやすい逆パース(遠くほど大きくなる破綻)は、水平エッジの収束方向の取り違えが主因。清書前の3分チェックで根絶できます。
アイレベルと二つの消失点の関係
アイレベルは地平線であり、すべての消失点はこの線上に並びます。二点透視では左右の水平エッジがそれぞれ別の消失点へ収束し、真正面の面は存在しません。見上げ構図では垂直線が上方にすぼまって見える錯視が起きやすいので、垂直の精度を最優先。線圧を均一に保ち、長い直線は定規と下敷きでブレを吸収します。
手前の垂直基準線と箱の起こし方
垂直基準線(建物の角)を一本立て、上端と下端から左右の消失点へ補助線を引いて二面を同時に作ります。ここで“同時に”が重要。片面ずつ作ると収束が乱れやすく、のちの屋根・窓位置がズレます。平行四辺形の面が2枚できたら、上下の厚み(基礎や立上り)を追加して箱を確定します。
消失点間距離と歪みの回避
消失点間距離が短いほど広角になり、手前角が誇張されます。安定感重視なら紙外に逃がし、迫力重視なら紙内でやや近づける。延長板(薄いスチレンや定規)をアイレベル上に固定し、消失点方向の直線を何本でも再現できる状態にします。
用紙 | 推奨消失点間距離 | 見え感 |
---|---|---|
A4縦 | 紙幅の2〜3倍(紙外) | 歪み少、実測感 |
A4横 | 紙幅の1.5〜2.5倍 | 標準的、扱いやすい |
スクエア | 一辺の2〜3倍 | 広角感を抑えやすい |
ガイドグリッドと等分の作り方
床の格子を先に作ると、窓列・階段・塀・アプローチのピッチが一気に整います。対角線法で手前辺をn等分→対角線→各等分点から消失点へ送る→奥辺の等分点を取得、の流れで遠近に忠実な等分が完成します。
- 手前辺n等分→角から対角線を一本
- 各等分点から消失点へ線を送る
- 交点列=奥辺のn等分点(そのまま縦枠や踏面に転用)
逆パースを防ぐ3分チェック
- 全水平エッジは左右いずれかの消失点へ向かっているか。
- アイレベルより上=下面が見える/下=上面が見える、を守れているか。
- 窓台・上枠・笠木・庇の水平が同じ方向に収束しているか。
外観パースの準備と構図決め
構図は画面の物語と読みやすさを支配します。二点透視で家の角を手前に置く構図は、外壁の量感とアプローチの奥行を同時に見せられる万能型。はじめに視点高さ(アイレベル)・消失点距離・手前角の位置(左右のオフセット)・建物の占有率(用紙に対する大きさ)を決めてから線を引くと、ラフの迷いが激減します。視点が低いと迫力は出るが軒裏が強く出る、視点が高いと屋根面と庭の配置が読みやすい――意図に応じて可変させます。余白の取り方ひとつで印象は大きく変わり、玄関側に斜めのアプローチを通すだけで、視線は自然にドアへ吸い寄せられます。
視点と画角の決め方
屋外では1.5m相当を基準に設定(実景観察なら自分の目線)。画角=消失点間距離は「紙外に逃がす」が安定の基本。広角演出を狙うとき以外は、用紙幅の2倍以上を目安に取ると歪みが抑えられます。
建物比率とリズムの作り方
間口:奥行=1:1.2〜1.5が汎用的に収まりやすい比率。手前角を紙中央から少しだけずらし、視線が抜ける側(道路や庭)に余白を置くと、画面に呼吸が生まれます。塀や植栽は建物より気持ち大きめに描いて前後関係を強調します。
スケッチ→清書の段取り
構図→箱起こし→屋根→開口部→外装ディテール→外構→陰影の流れを崩さないこと。各段階で“役割の違う線”だけに集中し、終わった役割の線は消すか極薄にして視界をクリアに保ちます。
段階 | 狙い | コツ |
---|---|---|
構図 | 視線誘導・余白設計 | 床目地やアプローチを消失点へ流す |
箱起こし | 二面を同時に立ち上げる | 垂直基準線から左右へ平行四辺形で |
屋根 | 棟・勾配・軒厚の確定 | 妻面で勾配三角→棟へ転送 |
開口部 | 窓・ドアの等分配置 | 対角線法+測点法で“測って置く” |
仕上げ | 陰影・材質・外構 | 光源を一つに固定、接地影で締める |
“線を増やすときは、必ず「役割」を伴わせる。役割のない線は迷いを増やし、完成を遠ざける。”
切妻屋根・寄棟屋根の描き方
屋根は建物の印象を決定づける“帽子”。正確な立体化の鍵は、箱の中心を見つけて棟を立て、勾配を面ごとに等しく落とし、軒の厚みと破風・鼻隠しを面で見せることにあります。切妻は妻面の三角が主役、寄棟は隅木が画面のリズムを作ります。片流れやフラット寄りの屋根も二点透視での基本は同じ。違いは“どちら側へ勾配を落とすか”と“軒の出の強調”です。
屋根の消失点と軒の出
屋根の水平エッジ(軒・鼻隠し・棟の水平部)は外壁と同じ消失点に収束します。外壁上端から軒を水平に出し、下面を一定量下げて厚みを作る。軒裏の見込み面も忘れず、奥方向の線は消失点へ。鼻隠しは軒先前縁の帯として細く入れ、側面は収束方向を合わせます。
棟の位置と勾配の取り方
箱の妻面で中心線を取り、所定の勾配(例:5寸=水平10に対し垂直5)の高さを仮決め→棟点を確定→左右の屋根面へ勾配線を落とす。寄棟では隅木(コーナーから棟へ向かう斜線)を先に引き、面を四つに分割してから割付を行うと破綻しません。
屋根材の割付と質感
瓦・スレート・金属立平など、材に応じて割付のピッチと方向が変わります。基本は“軒に平行=消失点へ収束”。立平は棟へ向かう細い立ち上がり線の反復で、金属らしい硬質感を強調。瓦は軒先で厚く、奥へ行くほど薄く・間隔を狭くして遠近を強調します。
- 破風板:妻面の三角で板厚を少しだけ見せると重厚感UP
- 雨仕舞:片流れは高い側の軒厚を強め、樋のラインを整理
- ハイライト:棟と軒先に細い反射の帯を入れると金属感が出る
屋根タイプ | 特徴 | 作図の要点 |
---|---|---|
切妻 | 最もシンプル。妻面が主役 | 棟高→破風→軒厚→割付の順に決める |
寄棟 | 安定感。四方向に落ちる | 隅木を先に確定し、四面それぞれの収束を整合 |
片流れ | モダンで簡潔。雨仕舞明快 | 高い側の厚み強調、勾配線を一方向に統一 |
開口部と外装ディテール
窓・ドア・庇・手すり・雨樋・外壁目地・バルコニー――小さなパーツほど“測る”だけで見違えます。二点透視では水平要素は必ず左右のどちらかに収束し、垂直は紙面垂直へ。窓列は対角線法で等分→縦枠を一気に立てる→サッシの見込みを面で見せる、の三手で“建築の顔”が整います。ドアは枠外寸→扉厚→丁番側のクリアランス→把手と鍵の高さの順で、現実の寸法に近づけます。階段は踏面(水平)と蹴上げ(垂直)の反復なので、床グリッドを活かせば破綻が起きません。
窓・ドア配置の等分テンプレ
手前辺をn等分→角から対角線→各等分点から消失点へ→奥辺等分点取得→縦枠を立てる、だけで遠近に忠実な窓列が完成。高さ方向も同様で、窓台・上枠・欄間の高さを対角線で転送します。
サッシの奥行きと壁厚の見せ方
開口の内側に一回り小さい四角を描き、側面(見込み)を消失点へ送って“一段奥まる”面で奥行きを作る。上枠は細、下枠はやや太で重心を安定。壁厚は外壁の切り口として短い線を“面で”追加します。
外壁・庇・手すり・雨樋
サイディングは横目地なら左右どちらかへ収束、縦目地は垂直の等間隔。庇は軒と同じく出幅→厚み→下面見込み。手すりの笠木は上面と側面の二面で板厚を見せ、雨樋は軒に沿う横樋と壁に沿う縦樋で“L字”の流れを作ります。
要素 | 一般的寸法の目安 | 描画のコツ |
---|---|---|
玄関ドア | W800〜900×H2000〜2100mm | 丁番側を細く、扉厚を面で |
腰高窓 | 窓台高900mm前後 | 下枠やや太、上枠細で重心安定 |
階段 | 踏面250〜280/蹴上160〜190mm | 踏面=水平反復、蹴上=垂直反復 |
庇の出 | 300〜600mm | 下面見込みを忘れず、影で厚み強調 |
- 面格子:等分グリッドを先に作り、後から太さを調整
- 外構フェンス:柱は垂直、桟は収束。足元の影で接地感UP
- 表札・ポスト:玄関動線の“誘導サイン”として配置
室内パースへの応用
室内の二点透視は、部屋の角を手前に置く構図がもっとも“効く”。床・天井・巾木・廻り縁・家具の水平が左右の消失点へ流れ、視線が自然に奥へ導かれます。室内で最重要なのはスケール。家具の代表寸法を“覚える”より“床グリッドに落とす”ほうが正確かつ速い。300mmグリッドを基準に、テーブル・ソファ・テレビボード・キッチン・ベッドを配置すれば、立体と動線が即座に見えてきます。光源は窓やダウンライトなど一つに絞り、面の明暗差をはっきり付けるほど、線は少なくても空間は強く立ち上がります。
角構図のセットアップ
アイレベル→垂直基準線→床グリッド(左右の消失点へ)→壁面の開口・巾木・天井の廻り縁→家具、の順で置く。ドアや窓は対角線法で高さ・幅を転送すれば、目分量のブレが消えます。
家具スケールと配置のコツ
ダイニング天板高720〜740mm、ソファ座面高380〜420mm、テレビボード高400〜500mm、キッチン天板高850〜900mm。床グリッド1マス=300mmに見立てて当て込むと寸法の当たりが良くなり、物と物の“呼吸”が整います。
- テーブル
- 脚を外側へ気持ち開いて奥行きを強調。天板厚2〜3段で存在感。
- ソファ
- 肘掛け厚とクッション段差を面で。座面前縁をやや太くして沈みを演出。
- キッチン
- 天板・バックガード・巾木の三層構成で水平を整理。吊戸の下端は一本で揃える。
光・影・反射の設計
光源を固定し、床のハイライトをグリッドに沿って落とす。家具の接地影は手前を濃く、奥で薄く。壁際はグラデーションで締め、ガラスや金属は細い反射の帯で材質を示すと線が増えずに情報量が増えます。
- 影のエッジは距離で柔らかく(遠いほどソフト)
- 反射光は弱く一回だけ。入れすぎると“曇り”に見える
- カーテンボックスやレールで窓上の厚みを補強
実践テクニックとよくあるミス
二点透視は“順序通り描けば誰でも整う”反面、順序を飛ばすと一気に崩れます。線を引きすぎる、収束方向を混同する、等分を省略して目分量で置く――これらはすべて“基準の欠落”が原因。以下は作図を加速し、清書で堂々と線を減らすための具体策です。
紙外消失点の扱い
延長板をアイレベルに固定し、角度の再現性を確保。消失点位置は小さくメモし、毎回同じ角度を再現します。線は“当ててから引く”ではなく“当てたまま滑らせる”。
測点法×対角線法のハイブリッド
手前辺の等分→対角線→測点→遠近方向へ送る、で床タイル・フェンス・窓列・階段ピッチが一発で整列します。測る手間はかかるようで、清書のやり直しが消えるぶん全体の時短になります。
線の整理と材質の出し方
補助線(薄)・構造線(中)・輪郭(太)。直射面は輪郭細、陰面は輪郭太。木は木目を収束方向に軽く流し、金属はエッジ鋭く、ガラスは反射帯を一本だけ。左官は点描の粒度で面の粗さを示します。
症状 | 原因 | 対策 |
---|---|---|
逆パース | 収束方向の取り違え | アイレベル確認→全水平を左右どちらかへ統一 |
広角歪み | 消失点間が近すぎ | 紙外へ離す、手前角の占有率を下げる |
窓列が波打つ | 目分量配置 | 対角線法で等分→縦枠を一気に立てる |
立体感が弱い | 光源不統一・影不足 | 光を一つに固定、接地影と面の明暗差を付ける |
線がうるさい | 補助線の消し忘れ | 段階ごとにリセット、最終で必要線だけ太く |
- 課題1:消失点距離を変えた同一箱の描き比べ(歪みの学習)
- 課題2:切妻→寄棟→片流れを同じ箱に被せて反復(勾配の学習)
- 課題3:窓三連・四連の等分練習(対角線法→縦枠→見込み→落ち影)
- 課題4:室内角構図で床300mmグリッド+家具配置+単一光源の陰影
まとめ
住宅パースの完成度は「最初の3本(アイレベル・二消失点・垂直基準線)」で8割決まります。これらを迷いなく敷き、消失点を紙外に逃がして広角歪みを抑え、箱を“同時に二面”起こせば、その後の屋根・窓・庇・階段は秩序に沿って素直に決まります。
開口部は目分量を排し、対角線法と測点法で“測って置く”を徹底。サッシの見込みや壁厚を一段分だけ見せ、光源をひとつに固定して面の明暗差を整理すれば、線が減っても立体は強くなります。清書直前のチェックは、収束方向の統一、アイレベル上下の見え方(上面/下面)、等間隔の乱れ、屋根面の割付方向、接地影と反射光の有無――たったこれだけ。
作図の速さは“正しい順序”から生まれ、順序を守れば誰でも均質な品質に到達できます。二点透視図法 家――基準線を疑わず置き、測り、揃え、減らす。これが最短で上達する黄金律です。
- 基準→等分→陰影の三段階で迷いを排除
- “面が増える=線が増える”原則で奥行きを最小線で表現
- 紙外消失点+細板(延長)で広角歪みを根本から回避